2-2.姉の許嫁

その頃の姉は、許嫁との結婚を目前にしていた。親が決めた許嫁だったが、姉はその男性との結婚を望んでいたし本当に彼を愛していたのだと思う。けれど、一つ問題があった。父の3人の妻の存在が姉の結婚にブレーキをかけていた。相手の男性の母親にとって彼女たちの存在は息子の将来に大きな影を落とす不安材料であったのは当然のことだ。
結納の直前、私の家で開かれた「両家の食事会」で、話は将来の遺産相続にまで及んだ。一切を譲ろうとしない父に話はこじれ、その場は修羅場となった。姉は泣いていた。いつものように父親が怒鳴り散らし、机をたたき、許嫁の家族は捨てぜりふを残して帰っていった。母や叔母はそれをなだめようと追って外に出ていった。
父が一人ぽつりと、部屋の中に寂しそうに座っていた。その場に取り残された私はその事態に怯えきっていた。
けれど、何故だったのだろう、私は父がかわいそうでならなかった。父を思うと悲しくて涙が出そうだった。子どものくせにこんな時に泣いたら変なんだろうな・・・そんなときでも私は頭の片隅でそう考えていた。次の瞬間父は私を膝の上に抱きあげ、手を握って、こう言った。
「誰もお父さんの気持ちは解らないんだな。」
つぶやくようなこの言葉に私は必死で涙をこらえた。「私がいるから、私には解るから・・・・」と心のなかで叫んでいた。無邪気な子どもらしさを演じ無表情を装いながら、自分でも不思議な事にこんな父の理解者になろうと心に誓っていた。怖いだけだった父に初めて感じた気持ちだった。きっと父の弱さを見た初めての出来事だったからだろう。

 こうして、姉の縁談は破談になった。




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