4.母との戦い


 姉が家に戻り、一方で私は、中学に進学した。
新しい友達との出会いがあり、自分とどこか同じものを持った友人たちと仲良くなった。
次第に、心を開いて過ごせる彼らと一緒にいる時間が増えていった。
私の新しい居場所が出来つつあった。

 姉はあの男との子どもを妊娠し、結婚し、家の二階に彼らの家庭を築いた。
結局彼女は、本当の意味で母のコントロールから抜け出すことは出来なかった。

 母の悲しみに対する私の同情は少しずつ薄れて行き、そのかわり反抗心はますますエスカレートし、次に産まれ始めたのは母に対する軽蔑だった。
父に愛されなかった母、姉を追いつめた母、そして中学生になった私の目には、あまりに軽薄だった今日までの母に対する軽蔑だった。
私の中には、母に対して無性に湧き上がる漠然とした苛立ちがあった。

 その一方で、いつも私は母の理解を渇望していたのかも知れない。
母と対立し言い争いながら、私は自分のことを必死で説明し訴えることを繰り返していたように思う。
けれど激しい口論の果てにたどり着くのはいつも、まったく歩み寄ることの出来ない母と私の絶望だつた。
何をどう理解して欲しかったのか、自分ですら解らなかったのだろう。
ただ私の言葉に耳を傾けて欲しかっただけなのかもしれない。
現実には、それは叶わない願いだった。
長い間、私はそれを諦めることが出来ずに無駄な努力をし、繰り返し失敗し、そのたび挫折した。
厚い厚い鉄の扉があって、手が腫れるほど叩きつづけているのに、扉の向こうの母には全く聞こえない・・・そんな感覚がいつも錘のように私の心の底に存在した。
母にしてみれば、かつてパワーゲームの武器だった従順な私が、そうした態度を見せることは耐え難かったに違いない。
彼女は自分を哀れんで泣くばかりだった。
そしてそのヒステリックな母の泣き声で、さらに私の言葉はかき消されるのだった。

 こんな日々の繰り返しの一方で、私を救ってくれていたのは、同じ境遇の友達と、音楽と、恋愛だった。
逃避することは、際限なく傷つけあってしまう母と自分を救うための無意識の手段だったのだと思う。




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