幻覚 
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 目を覚ますと、自分しかいないはずの家の中で人の気配がする。
息を殺してじっと様子をうかがっていると、物音…床のきしむ音、衣服が擦れる音、ドアノブを回す音、何かがぶつかる音、人の声…が聞こえてくる。
物音と人の気配はだんだんとこちらに近づいてくる。
誰だろう、どうしよう…。
 考えているうちに、何者かは息づかいが聞こえるほどの距離まで近寄っている。
恐ろしい目に遭うかもしれない、殺されるかもしれない。
いっそのこと寝たふりをしていよう…、そう思いながら薄目を明けると、そこには知らない男が立っている。
男は私のそばに近寄り、傍らに腰かける。
呼吸が乱れないように、身体が不自然に動かないように、身の危険を感じながらも、眠ったふりをしてやりすごそうとしていると、男がすっと手を伸ばして私に触れる。
不快感と恐怖。
じっと体を固くして、怖い怖い怖い…ただ、恐怖と戦いながら不快な感触に耐えている。

急に何もかもが一気に消え、ほっとする。

家の中に別の気配がする。
誰かがまだここにいる。
目を開けてみると、夫が立っている。
でも、私は知ってる。
この人は夫を装った別人であること、悪魔のような存在であること。
いつもの夫の目ではない。
夫のふりをした悪魔は私のそばに座り、それからとなりに滑り込むようにして身体を寄せる。
怖い怖い怖い。
頭の中ではこんな考えがぐるぐると回っている。
このまま、悪魔のなすがままになれば、自分も悪魔になってしまう。
抵抗すれば殺されてしまう。
誰か、誰か…。

そして再び何もかもが消えて無くなる。

リアルな声、呼吸音、顔にかかる息、はっきりと見た姿、どれも夢とは思えない。
そして、何より恐ろしいのは、身体に残った生々しい感触。
たった今まで感じていた体温、臭い。
直前まで誰かがここにいた余韻。
急いで玄関のロックを確認しに行くと、鍵はかかっている。
人が家を荒らしたような形跡はない。
何一つ動いていない。


 こんな悪夢を見るようになってからもう15年くらい経ちました。
何か酷くショックなニュースを見た後、嫌なことが有った後、大きな声や物音でびっくりして目覚めたときによく起こります。
そういう外側からの刺激に加え、眠りから覚醒への移行、またその逆がうまくいかなかった時にも起こるような気がします。
得体の知れない、何が何だか解らない現象に、ただ翻弄されるばかりの状態から脱却しようと、このからくりを調べてみました。  

 睡眠障害には、不眠を始め様々なものがありますが、睡眠時随伴症は寝ている間に起きる異常です。
私のこの金縛りのような状態は、出眠時幻覚(hypnopompic hallucinations)という睡眠時随伴症のひとつに分類されるようです。
目覚めるときに起きる幻覚を出眠時幻覚、これに対して寝入りばなに起きるものは入眠時幻覚(hypnagogic hallucinations)といい、これらを含めた睡眠障害が起きる原因は様々です。
統合失調症、うつ病、PTSDなどの精神疾患もあれば、身体の病気も原因となります。
が、一方で、金縛りのような睡眠時随伴症の症状は、健康な状態の人にもしばしば起きるものでもあります。
体を動かそうとしても動かない…というような睡眠麻痺を伴ったりし、恐ろしい悪夢を経験したことのある方も多いでしょう。
私を悩ましているこの幻覚は、トラウマとなった出来事を繰り返し悪夢で再現してしまう事に加え、入・出眠時幻覚が起きてしまう状態だと思われます。

幻覚は、その場に無いものを実際にあるかのように知覚することを言います。
幻聴(体の外からも中からも聞こえ、耳で聞こえるものに限らず、頭の中に聞こえるというものもあります)、幻視(色や光などの単純なものから、人物など具体的なものまで、その場にないはずのものが見えます)、幻味(味覚を感じる)、幻嗅(においとして感じる)、幻触(誰かにさわられたり、皮膚の上を虫が這ったりというようなもの)、などあらゆる感覚器官に対して起こります。
 
 幻覚の原因の中には、上記の他にも、アルコール幻覚症、覚醒剤精神病など、被害的な幻声を認めるものや、意識障害を伴うような「幻視」の原因には重い身体疾患が原因となることがあります。
また、ある種のてんかんでも、幻嗅や幻味のような幻覚が起きることがあるそうですので注意が必要です。



以上リンクしている「メンタル・ヘルス・ネット」から参考にさせていただいていますので、疾患についての詳しい記述はそちらをご覧ください。